スライドセミナー「脳腫瘍」

CASE 921.5

症例 5.14歳,女性

14歳  3月頃   ソフトボールのピッチャーの投球コントロールが悪くなった。
右手のdysmetria出現。時々嘔吐あり。
8月     CTスキャンで小脳正中から左にかけてlow density areaがあり,
その壁から中心にかけて突出する軽度のhigh density areaが認められる。
8月 27日 腫瘍摘出術施行。
手術所見 嚢胞を開くと琥珀色の液体が流出。
mural noduleとその周囲の実質性の部分を全摘出した。
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CASE 921.5 SUMMARY

1.組織学的診断:pilocytic astrocytoma

スペース

2.診断に至る要点と注意点

  1. 14歳女児の小脳腫瘍
  2. 嚢胞性腫瘍,壁に腫瘍結節 mural nodule
  3. 細胞密度は低い,細長い突起を持つ双極性細胞,水腫性間質
  4. 核は類円形で小型,均一,分裂像は乏しい
  5. 間質の水腫と microcystic degeneration
  6. Rosenthal線維が多数みられる
  7. 血管内皮の増殖や壊死はない

3.本腫瘍の病理学的概要

  1. 毛髪様の細長い突起を持つ紡錘形細胞から成る腫瘍
  2. 小児の小脳,視神経,視床下部が好発部位
  3. 比較的境界明瞭,嚢胞を伴う,嚢胞に mural nodule
  4. 異型の乏しい核と繊細な突起を伸ばす双極性細胞
  5. 二相性の組織像(biphasic pattern, compact-spongy)

    1) 細胞成分と突起の多い充実性部分
    2) 細胞間に強い微小嚢胞変性を伴う水腫性部分

  6. Russel and Rubinstein の分類

    1) juvenile type —- biphasic pattern を示すもの
    2) adult type ——- 専ら充実性部分のみより成るもの

  7. Rosenthal fiber: 腫瘍細胞間に出現する好酸性の棍棒状あるいは

      ソーセージ状構造物,αB-crystallinが主成分

  8. granular body: 顆粒状の物質を入れた円形構造物
  9. 摘出後の予後は極めて良好

4.Comment

Pilocytic astrocytoma 毛様細胞性星細胞腫

 定義 細長い毛様の突起を持つ紡錘形細胞から構成される星細胞腫である。

 特徴 限局性の腫瘤を作る腫瘍で、しばしば嚢胞を随伴する。主に小児に発生し、小脳、脳幹、視神経、視床下部が好発部位である。
双極性突起を伸ばす腫瘍細胞が束をなして増生する充実性部分と、細胞密度が低く細胞間に著明な微小嚢胞変性を伴う水腫性部分とが交代性に出現する二相性の組織像(biphasic pattern, compact-spongy)が特徴である。
ただし充実性部分と水腫性部分の比率は様々である。
 二相性の組織像がみられるものを若年型(juveniletype)、充実性部分のみからなるものを成人型(adult type)と区別している。腫瘍細胞の核は通常は小型均一であるが、ときに多形性とクロマチンの増量を示すことがある。
核分裂像は常に乏しい。充実性部分の腫瘍細胞突起内には強い好酸性を示す均質無構造な棍棒状あるいはソーセージ状の構造(Rosenthal fibers)がしばしば認められる。
また、細胞質や突起内に微細な硝子滴出現しそれが集まって顆粒小体(granularbodies)を形成することも特徴である。嚢胞壁などには血管の増殖と糸球体係蹄様構造の形成、血管壁の硝子様肥厚などがみられることがある。
腫瘍がクモ膜下腔に進展することはあるが、播種をきたすことはない。
 ごくまれに、毛様細胞性星細胞腫のなかに双極性細胞突起を伸ばす腫瘍細胞が著明な柵状配列を示して増殖することがある。このような配列パターンが顕著な腫瘍はかつてprimitive polar spongioblastoma 原始極性海綿芽腫と呼ばれた。
乏突起膠腫や髄芽腫や神経細胞系腫瘍でもこのような柵状配列を示すことがあり、原始極性海綿芽腫の腫瘍概念としての独立性には疑問がある。

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