CASE 9215.15
症例 15.41歳,男性
30歳頃より | めまい感が出現していた。 |
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40歳 10月 | 左難聴を自覚。 |
41歳 3月 | 舌左半分の味覚低下,左鼻翼付近の異常知覚が出現した。CTスキャンにて左小脳橋偶角部に腫瘍を認めた。 |
41才 5月 | 腫瘍亜全摘術施行。 |
画像 |
CASE 921.15 SUMMARY
1.組織学的診断:schwannoma
スペース
2.診断に至る要点と注意点
- 41歳の男性,めまいと難聴,長い経過
- 小脳橋角部の腫瘍
- 細胞密度は中等度
- 細長い核と繊細な細胞突起を伸ばす紡錘形細胞,線維束を形成
- 核がわずかに柵状に並ぶ傾向もみられる
- 核の異型は乏しく,分裂像はほとんど見られない
- 一部にヘモジデリンの沈着
- 血管の増生はなく,壊死巣はない
3.本腫瘍の病理学的概要
- 頭蓋内腫瘍の5~10%
- 中高年の女性に多い
- 聴神経に好発,稀に第5,第10神経に発生
- 被膜を持つ境界明瞭な腫瘍,しばしば出血と嚢胞を合併
- シュワン細胞に類似の紡錘形細胞が増殖
- 細長い核が横に並ぶ:核の柵状配列 nuclear palisading
- 細胞が緻密に配列:fascicular pattern, Antoni type A
- 細胞が緻密に配列:fascicular pattern, Antoni type A
水腫性間質が豊富:reticular pattern, Antoni type B
- 免疫組織化学:S-100 protein, leu 7
- 電顕:中間径細線維,細胞周囲の基底膜,long spacing collagen
4.Comment
Schwannoma シュワン細胞腫
特徴 神経鞘腫(neurilemmoma, neurinoma)とも呼ばれる。 頭蓋内では脳神経、脊髄内では脊髄神経に発生する。知覚神経に頻度が高いので、
頭蓋内では第8神経が最も多く、第5および第 10 神経にもみられ、脊髄神経では後根に好発する。第8脳神経に発生したものは内耳孔付近から小脳橋角部に発育し、小脳や脳幹を圧迫しながら増殖する。
薄い被膜を持つ腫瘍で、小さなものは充実性で淡桃色を呈するが、大きな腫瘍ではしばしば嚢胞や出血を伴っている。 組織学的には細長い杆状核と核の両極から伸びる繊細な細胞質突起を有する双極性細胞が線維束を作って増殖している。
細胞は比較的均一で、核の異型は乏しく、核分裂像はほとんどみられない。このような部分は細胞密度が高く、Antoni A 型(線維束型 fascicular type)と呼ばれている。 線維束のなかで腫瘍細胞の核が、
横に並ぶ傾向がしばしば認められる。 これが核の柵状配列(palisading)である。このような柵状配列が、間に核の無い領域(無核帯)を挟んで2列に並ぶ構造はシュワン細胞腫に特異的といわれ、
この領域はVerocay bodies と呼ばれている。 また、ときには線維束が渦巻状に配列し、髄膜腫に似た所見を示すこともある。一方、細胞間隙に組織液が増量した部分では、細胞は離開して個々の腫瘍細胞の形態が明瞭となり、特徴的な配列は失われる。
このような部分は Antoni B 型(網状型 reticular type)と呼ばれる。Antoni A 型と B 型の組織像は同一の腫瘤内に共存することがあり、両者間に移行を認めることもある。 腫瘍細胞の核には著しい多形性が現れることがある。
比較的経過の長いシュワン細胞腫に多く、ancient schwannoma と呼ばれる。 この所見は悪性を意味するものではない。細胞密度は低く、核分裂像がなくことを確認すれば診断は容易である。
また、変性所見として、細胞質に黄褐色ないし灰青色の色素顆粒が出現することがしばしばある。この色素はメラニンとは異なる物質であり、melanotic schwannoma と混同しないよう注意が必要である。 間質には血管がよく発達しており、
ヘモジデリン沈着や線維化などの2次変性もしばしば見られる。 免疫組織化学的には、腫瘍細胞に S-100 protein, vimentin, Leu 7, 2E 抗原などの陽性所見が認められる。EMA は陰性であり、髄膜腫との鑑別に有効である。
電顕的には、腫瘍細胞には中間径細線維が観察され、細胞の周囲を基底膜で包まれている点が特徴である。細胞間隙にはlong-spacing collagen(Lusebodies)が認められる。これは 120 ~ 150 nm の周期性横紋をもつ特殊な膠原線維である。