はじめに
脳腫瘍の病理診断において病理医は、腫瘍の病理組織像と細胞形態を詳細に観察し、そこから様々な形態情報を読み取って、発生母細胞と組織型を推定し、悪性度を評価しています。この診断過程は病理医の経験、知識、主観的な判断力、パターン認識能力に依存する度合いが高く、ややもすれば客観性を欠く欠点がありました。「病理診断はscienceではなくartである」といった批判があることも事実です。
これに対して脳腫瘍組織が持つ様々な形態情報をデジタル化して客観的に評価する試みは、今後の形態学の1つの方向性を示しているということができます。ここに紹介するGunmetryは脳腫瘍組織画像を電算処理して、核密度、核面積、核の平均サイズ、核サイズのばらつき、細胞形態と配列の規則性などを数値化するために開発されました。
Gunmetryはこのページから無料でダウンロードすることができます。ここではGunmetryの使用法と注意点について解説します。
準備と注意点
- このシステムは顕微鏡とデジタルカメラの機種には依存しません。一般的な顕微鏡デジタルカメラで撮影した汎用フォーマットの画像データならば解析可能です。
- GunmetryはWindowsパソコンで動作します。Windows XP, Vista, 7, 8, 8.1 での動作は確認済みです。
- 動作はImageJのバージョンに依存します。ImageJ version 1.36 で最も安定して作動します。
- ImageJはアメリカ国立衛生研究所で開発されたパブリックドメインの画像処理ソフトウェアです(http://imagej.nih.gov/ij/)。日本語化されていないソフトですので、画像データのファイル名や保存してあるフォルダ名に日本語などの2バイト文字を使うと動作しません。注意してください。
- このホームページから ImageJ.zipとSampleImages.zip をダウンロードし、PCのルートディレクトリ(C:\)に保存してから、解凍してください。
- Gunmetryは2004年に田中学博士が開発したImageJのプラグインソフトウエアです。著作権は田中学博士が所有しています。
- このソフトウエアは以下の文献に発表されています。このソフトウエアを使った研究論文を発表するときには引用をお願いします。
Gaku Tanaka, Yoichi Nakazato: Conditional entropy as an indicator of pleomorphism in astrocytic tumors. Neuropathology. 2004 Sep;24(3):183-93. [PMID:15484696]
- このソフトウエアを他の病理医、研究者に頒布してもかまいませんが、ソフトウエアの改変はしないようにお願いします。
- このソフトウエアを使用して不具合が発生しても、ソフトウエアの開発者およびNPO法人日本脳腫瘍リファレンスセンターは責任を負いません。必ず自己責任にて使用してください。
ソフトウエアとサンプルデータのダウンロード
使用法
- 計測データを標準化するため最初に、使用するデジタルカメラの撮像面積を計測してください。このためには血算盤の目盛りを撮影し、これを元に撮像面積を計算します。ちなみに、私の顕微鏡(Olympus BX53, UPlanSApo20x, NFK3.3, カメラ Nikon DS-Fi1)で撮影した場合、撮影視野の面積は0.140 mm2 、1ピクセルの面積は、0.454 micrometer2でした。この数値を使って細胞密度や核の平均サイズなどを算出することができます(コメント参照)。
- 計測するH.E.染色標本より画像をデジタルカメラで撮影し、PC内に保存してください。撮影する画像画素数は640×480ピクセル程度が最適です。保存形式はJPEGでもTIFFでもBMPでも結構です。撮影するときの対物レンズはx20が良いと思います。画像ファイル名、画像を保存するフォルダ名には日本語などの2バイト文字は使わないでください。
- PCのルートディレクトリのImageJ-136フォルダ内にある実行形式ファイル”JmageJ.exe”をダブルクリックして起動してください。ImageJ version1.36bが立ち上がり、小さいウインドウが開きます。
- メニューバーのなかの”Plugins”をクリックすると、下方にメニューが出てきますので、マウスを滑らせてリストの中程にある”Gunmetry”にマウスを合わせると、横に”Gunmetry ver010”メニューが表示されますので、これをクリックして選択してください。
- 小さな”ANALYSIS”ウインドウと結果を表示する”Watershed”ウインドウが開きます。
- ここで”ANALYSIS”ウインドウの下から2番目の”ANALYZE”ボタンをクリックしてください。解析する画像を選択するウインドウが開きます。
- 解析する画像ファイルが保存してある場所へ移動して、画像ファイルを1つ選択し、「開く」ボタンをクリックしてください。
- およそ1~2秒後に解析がおわり、3つのウインドウが表示されます。
[Images] ウインドウには解析した元画像、[Watershed]ウインドウには抽出した核を赤、その他の背景を黒で表示した解析画像、そして[Results]ウインドウには数値化された画像情報が示されます。
ここで一つ大切なことがあります。 [Images] ウインドウの元画像と[Watershed]ウインドウの解析画像を良く見比べて、コンピュータの解析結果を自分の目で評価することです。元画像の細胞核が赤で正しく表示されているか、余分な構造をノイズとして拾っていないか、じっくりと観察してください。細胞密度の低い腫瘍ではときにノイズを拾う場合があります。細胞核がほぼ正しく認識されていることが確認されたら、[Results]ウインドウの結果をみてください。 - [Results]ウインドウには次の数値が表示されます。
File: 解析したファイル名です。
TOTALnumber: 細胞核(と認識された構造)の個数です。
TOTALarea: 細胞核の占める面積(パーセント)です。
MeanArea: 個々の核面積の平均値(ピクセル)です。
SDofArea: 核面積の標準偏差値(ピクセル)です。
Entropy: 核形態の多形性をエントロピーとして表示した数値(ビット)です。
EntropyCond: 上記エントロピーを隣接細胞間で計算した数値(ビット)です。 - これらの数値を使って細胞密度や核の平均サイズなどを算出することができます(コメント参照)。
- 1回の測定を終えて次の画像の測定に移るときには、[ANALYSIS]ウインドウのいちばん下の[DISPOSE]ボタンをクリックして、PC画面に表示されている[Images] ウインドウを消してから、上記6.以降の手順を繰り返してください。
コメント
- ある脳腫瘍のH.E.染色画像(ファイル名DSL0014.JPG)の計測結果について、これから得られる情報を計算してみます。
File: DSL0014.JPG
TOTALnumber: 1211 (A)
TOTALarea: 20.4
MeanArea: 51.8 (B)
SDofArea: 33.0 (C)
Entropy: 1.3447
EntropyCond: 1.4808 - 私の顕微鏡(Olympus BX53, UPlanSApo20x, NFK3.3, カメラ Nikon DS-Fi1)で撮影した場合、撮影視野の面積は0.140 mm2 、1ピクセルの面積は、0.454 micrometer2でした。そこで、
細胞密度(1平方ミリ内の細胞数)は、1,211 (A) ÷ 0.14 = 8,650 (/mm2)
1個の平均核面積は、51.8 (B) × 0.454 = 23.5 (micrometer2)
核面積の標準偏差は、33.0 (C) × 0.454 = 15.0 (micrometer2)
となります。まとめると、Cellularity (number of nuclei/mm2): 8,650 (/mm2)
Total nuclear area: 20.4%
Average size of nuclei with SD: 23.5 ± 15.0 micrometer2
Simple entropy: 1.3447 bits
Conditional entropy: 1.4808 bitsが得られた情報です。
ご質問などがありましたが以下までご連絡ください。ただし、ソフトウエアのversion upや改良などのサポートには応じられませんのでご了承ください。
NPO法人日本脳腫瘍リファレンスセンター
顧問 中里 洋一
E-mail:nakazato_yoichi@gunma-u.ac.jp
TEL:027-362-6201 / FAX:027-362-8901
※メールアドレスは@を半角にして送信してください。