共焦点レーザー顕微鏡は試料内の焦点のあった像のみを鮮明に観察できる新しい型の光学顕微鏡である。通常の光学顕微鏡で焦点(ピント)を変えていきながら、光学的に切片を作っているという実感はある。しかし、焦点面の像はその上下のぼけた像が加わるので、かなり鮮明さが損なわれる。試料が厚いほど像は不鮮明になり、この問題は蛍光顕微鏡でとくに深刻である。共焦点レーザー顕微鏡はこの問題を解決するべく登場したともいえ、今日、蛍光抗体法を始め、各種蛍光プローブを用いた蛍光顕微鏡観察に威力を発揮している。共焦点レーザー顕微鏡では、厚い試料内の任意のレベルで、薄い光学的切片像、つまり断層像を観察し記録できる。原理的に点からの光は電気信号に変えられ数値化され、その集積として画像が形成される。したがって、コントラスト増強、連続的光学切片像の重ね合わせ、立体視、定量化などの各種の画像処理が可能である。また、当然ながら、生きた細胞・組織の動態観察ができる。したがって、この顕微鏡への期待は大きく、今日、医学生物学への応用は急速に拡がっている。
共焦点レーザー顕微鏡には、垂直落射顕微鏡方式が採用されているが、これは共焦点光学系をより活かすことができるからである。その応用には落射蛍光顕微鏡モードと反射顕微鏡モードの2通りがある。蛍光顕微鏡モードでは、蛍光染色を施した厚い試料の観察に威力を発揮するので、細胞や小型の卵や初期胚、組織片などは切片にすることなく、丸ごとの全載標本が観察対象となる。また、厚い切片でも薄い光学的切片を作ることによって鮮明な像が得られる。このように試料に厚さの制約が小さく、薄い切片の作製が不要である利点は大きい。
生きた細胞の観察では、多種多様な蛍光プローブを使い分けることによって、細胞表面の形態や形態変化を観察できるとともに、物質の動態や動的現象も分析できる。細胞内部の構造も特定の蛍光染色を施すことによって観察でき、膜オルガネラ、核ないし染色体などが観察対象となっている。細胞内Ca2+濃度、pH、膜電位などを検出する蛍光プローブが多数開発されてきた。さらに、試料からの蛍光量を正しく空間的に測定できる。一定の厚さの光学切片が得られることで、その中の蛍光強度を定量できるからである。このように、他の方法では困難な各種分析を可能にしている。
反射顕微鏡モードでは、ゴルジ銀染色やコロイド金染色など、レーザー光をよく反射する金属での選択的染色を施した試料の観察ができる。また、特殊な応用として、干渉反射像によって細胞接着の状況を観察もできる。最近、酵素・免疫細胞化学におけるペロキシダーゼ活性産物を偏光反射像で検出できるようになった。
共焦点レーザー顕微鏡の今後の展望としては、レーザー光源、光走査法、コンピューター技術などの装置面での改良が進むとともに、応用面、とくに試料作製法が次々と開発されるであろう。実際、新しいレーザー光源の導入は使用する蛍光プローブの開発と連動し、機能を見る技術の発展となっている。生きた細胞の動的変化、とくに早い動態の観察には走査の高速化が要請され、リアルタイム観察のための装置開発が進んでいる。従来のスリット光走査方式に加え、音響光学偏向素子方式、共振型ガルバノメーター方式、ニポウ円板方式の導入が鋭意進められている。最近は二光子励起レーザー走査顕微鏡も開発され、今後の発展が期待される。