スライドセミナー「脳腫瘍」

CASE921.1

症例1.38歳,男性

32歳 7月 左前頭葉腫瘍摘出術施行(約80%摘出)
術後照射30Gy
38歳 9月 経過観察中のCTスキャンで腫瘍の再発,けいれん発作も出現した。
10月 腫瘍摘出術施行。
手術所見 腫瘍は左前頭葉に局在。灰白色軟で出血性ではない。
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CASE 921.1 SUMMARY

1.組織学的診断:fibrillary astrocytoma

スペース

2.診断に至る要点と注意点

  1. 成人男性の前頭葉腫瘍,5年の経過
  2. 細長い突起を持つ星形の細胞,好酸性細胞質
  3. 核は類円形,均一,分裂像に乏しい
  4. び漫性増殖,中等度の細胞密度
  5. 間質の microcystic degeneration
  6. 血管内皮の増殖や壊死はない

3.本腫瘍の病理学的概要

  1. 成人の大脳半球と小児の脳幹,小脳に好発
  2. 境界不鮮明な灰白色充実性の腫瘤, 嚢胞(+/-)
  3. 繊細な突起を星芒状に伸ばす腫瘍細胞がび漫性に増殖
  4. 腫瘍細胞の形態の特徴により,

    原線維性(fibrillary)
    原形質性(protoplasmic)
    肥胖性(gemistocytic)

    などの組織亜型がある.

  5. 免疫組織化学: GFAP, vimentin, S-100 proteinが陽性
  6. 電顕: グリア細線維とグリコーゲン顆粒

4.Comment

Astrocytoma 星細胞腫

 定義 星細胞に類似の形態を示す腫瘍細胞が主要な構成成分をなす腫瘍である。

 特徴 成人の大脳半球と小児の脳幹、小脳に好発する。境界不鮮明な灰白色充実性のや
や軟らかい腫瘤を形成し、嚢胞を伴うこともある。割面は膠様を呈し、軟らかく触れる。
周囲の脳実質に向かって浸潤性に増殖するが、既存の解剖学的構造を破壊することは少な
い。

 組織学的には類円形の核と好酸性の細胞質を持ち、繊細な突起を星芒状に伸ばす腫瘍細
胞がび漫性に増殖している。細胞の核には大小不同、クロマチンの増量などが軽度に現れているが、異型性は一般に乏しく、核分裂像は少ない。間質に微小嚢胞変性(microcystic degeneration)を伴うことがある。腫瘍の浸潤部では、腫瘍細胞が神経細胞の周囲、血管の周囲、軟膜下、脳室上衣下などに集積することがあり、これらはシェーラーの2次構造(Scherer’s secondary structures)と呼ばれている。

 腫瘍の主な構成細胞の形態の特徴に基づいて、fibrillary astrocytoma 原線維性星細胞腫、protoplasmic astrocytoma 原形質性星細胞腫、gemistocytic astrocytoma 肥胖性星細胞腫などの組織亜型が区別される。しかし、純粋に単一の細胞から成るものは少なく、これらの形態を示す細胞が複数混在して腫瘍を構成していることがむしろ一般的である。

 亜型 fibrillary astrocytoma 原線維性星細胞腫 主に白質に発生し、星細胞腫中最も頻度が高い。腫瘍細胞の核は類円形で、クロマチンの軽度の増量があり、細胞質は狭く繊細な長い突起を伸ばしている。突起はしばしば血管に向かって伸びており、血管足を形成する。血管を中心として細胞が花環状に並ぶ放線冠配列がみられることもある。細胞間には線維性基質が良く発達し、そこに微小嚢胞変性がしばしばみられる。腫瘍細胞の細胞質と突起ぱ GFAP 陽性である。

 亜型 protoplasmic astrocytoma 原形質性星細胞腫 稀な亜型で大脳皮質に多く、境界が比較的鮮明で嚢胞を伴うことがある。腫瘍細胞は星形の細胞で、淡染する狭い細胞質から短い脆弱な突起を伸ばしている。細胞質のグリア線維の発達が不良で、GFAP の染色性が弱い。細胞間には類粘液様基質が豊富に見られ、微小嚢胞変性が強いため、組織がクモの巣状にみえることがある。

 亜型 gemistocytic astrocytoma 肥胖性星細胞腫 成人の大脳半球にみられる。偏在する核と好酸性硝子様の広い細胞質を持つ大型類円形ないし多角形の細胞から成る腫瘍型である。細胞質突起は太く短い。細胞質と突起は GFAP に強陽性を示す。細胞が血管周囲で偽ロゼット配列を示すこともある。他の星細胞腫亜型より浸潤性の性格が強く、幾分悪性度が高いと考えられている。

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