スライドセミナー「脳腫瘍」

CASE 921.21

症例 21.61歳,男性

            

60歳 12月     右視力が低下する。
61歳  4月 18日 自転車で転倒。意識障害があり,CTスキャンにて右前頭葉底部の嚢胞性腫瘍が発見される。その後,頭痛,嘔気出現。
61歳  6月 25日 意識消失発作。
61歳  7月    頭蓋内圧亢進症状が増強。
61歳  8月 16日 腫瘍部分摘出術施行。術後のCTでトルコ鞍部の腫瘍は残ったが,右視力低下以外の神経学的症状はなかった。
61歳  8月 27日 発熱,呼吸困難,血圧低下,腹部膨満が出現。
61歳  8月 31日 気胸を併発,死亡。
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CASE 921.21 SUMMARY

1.組織学的診断:pituitary adenoma

スペース

2.診断に至る要点と注意点

  1. 61歳の男性のトルコ鞍部,鞍上部腫瘍
  2. 中等度細胞性,均一な細胞がシート状に配列,多房性嚢胞を合併
  3. 類円形核と弱好酸性の細胞質を持つ腫瘍細胞が上皮様に配列
  4. 核の異型は乏しく,核分裂像は少ない
  5. 組織の壊死はない

3.本腫瘍の病理学的概要

  1. 頭蓋内腫瘍の16%,性差はない
  2. ホルモン分泌性,非分泌性

    1) ホルモン非分泌性 ———– 35%
    2) PRL産生腺腫 ————- 25%
    3) GH産生腺腫 ————— 30%
    4) ACTH産生腺腫 ———– 10%.

  3. 小さな腺腫は鞍内に,大きな腺腫は鞍上部から第3脳室,間脳へ発育
  4. 白色調で軟らかく,手術時吸引が可能
  5. H.E.染色などの腺腫細胞の細胞質の染色性から3種類に分類

    1) 好酸性腺腫 ———– GH腺腫に多い
    2) 好塩基性腺腫 ——— ACTH腺腫に多い%
    3) 色素嫌性腺腫 ——— ホルモン非分泌性,PRL腺腫に多い%
                    

                    これらの混合型もある

  6. 増殖のパターンによる分類

    1) diffuse type
    2) sinusoidal type
    3) papillary type%

  7. 免疫組織化学:cytokeratin, EMA, ホルモン
  8. 顕:分泌顆粒(ホルモンによってサイズが異なる)

4.Comment

Pituitary adenoma 下垂体腺腫

 特徴 脳下垂体 pituitary gland, hypophysis は2つの全く異なった部分から発
生してくる。1つはラトケ嚢 Rathke’s pouch であり、これは第3週の胚の口
窩上壁が背側に向かって突出し、漏斗に向かって伸びた構造である。もう一つ
は間脳が下方に向かって伸び出した漏斗 infundibulum である。胎生2ヶ月の
終りにはラトケ嚢は口腔との連続性を失い、トルコ鞍内で漏斗と密着した構造
となる。ラトケ嚢の前壁の細胞は急速に増殖して、下垂体前葉(腺性下垂体)
となり、後壁は下垂体中間部となる。漏斗は下垂体茎と下垂体後葉(神経下垂
体)に分化する。 下垂体腺腫 pituitary adenoma は前葉細胞より発生する良
性腫瘍である。前葉細胞は染色色素との親和性により3種類に分類されてきた。
好酸性細胞、好塩基性細胞、嫌色素性細胞である。現在では、免疫組織化学的
に少なくとも5種類の前葉細胞が区別される。すなわち、成長ホルモン細胞、
プロラクチン細胞、副腎皮質刺激ホルモン細胞、甲状腺刺激ホルモン細胞、性
腺刺激ホルモン細胞である。これらいずれの細胞も腫瘍の発生母細胞となりう
る。
 下垂体腺腫は、 主に成人に発生し、頻度は全頭蓋内腫瘍の 16% を占めてい
る。古典的には腺腫細胞の光顕的染色性により3型(好酸性腺腫、好塩基性腺
腫、嫌色素性腺腫)に分類されていた。最近では免疫組織化学的、電顕的検索
に基づく機能的分類が一般化しつつある。
 機能的分類法ではすべての腺腫は、 機能性腺腫 functioning adenoma と非
機能性腺腫 nonfunctioning adenoma の2群に分類される。前者は腺腫細胞が
何等かのホルモンを産生するものである。ホルモン産生の有無を知る指標には
いくつかあり、臨床症状、血中ホルモンレベル、免疫組織化学的反応、電顕的
な分泌顆粒の存在などで判定が行われる。これらの指標はそれぞれ感度が異な
っているので、ある腺腫は電顕的には機能性腺腫であるが、ホルモンレベルの
観点からは非機能性腺腫に分類されることもありうる。表に機能的分類と発生
頻度を示す。

  CLASSIFICATION OF PITUITARY ADENOMA (Kovacs and Horvath, 1986)

 ========================================================================

    Tumor Type         Incidence (%)    Staining

  ————————————————————————

  prolactin cell adenoma 30 [c] to slightly [a]

  growth hormone cell adenoma 17 [a] to [c]

  mixed GH cell-PRL cell adenoma 4.5 [c] to [a]

  acidophilic stem cell adenoma 3.5 [c] to slightly [a]

  mammosomatotroph cell adenoma 1.5 varying degree of [a]

  corticotroph cell adenoma 14 [b] to [c]

  thyrotroph cell adenoma [1 [c]

  gonadotroph cell adenoma 2.5 [c]

  null cell adenoma 17 [c] to slightly [a]

  oncocytoma 6 [a] to [c]

  unclassified plurihormonal adenoma 2.5 variable

  ========================================================================

  [a]: acidophilic, [b]: basophilic, [c]: chromophobic

  

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